11月19日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

論文問題 刑法〈12〉
〔同時傷害の特例〕
通行中に肩が触れたことで口論となり、激こうしたAは、Bに殴りかかった。たまたま、同所を通りかかったCは、この様子を見て、2人の仲裁に入ったが、殴られていたBから、「お前は関係ない。帰れ。」などと激しく罵声を浴びせられたことから憤慨して、CもBに殴りかかった。その結果、Bは顔面打撲等の傷害を負った。しかし、これはAとCのどちらの暴行によるものか不明であり、またAとCは全く面識はなくBに暴行を加える意思の連絡はなかった。
この場合の、AとCの刑責について述べなさい。
⇒本問は、同時犯の事案であるが、同時犯は、共犯から区別される。
⇒同時犯とは、二人以上の行為者が、意思の連絡なしに、時を同じくして、同一客体に対する同一の犯罪を実行する場合をいう。
⇒同時犯は、同時に行われる単独正犯が並列したものにすぎないから、各行為者は、めいめい自己の行為から生じた犯罪的結果について正犯者としての責任を負う。したがって、犯罪的結果の発生があっても、それが誰の行為に基づくか明らかでない場合は、共同正犯と異なり、全ての行為者に未遂の責任を問いうるにすぎない。
⇒ただし、傷害罪については、特例が設けられている(207条)

答案構成例
1.同時傷害の特例
2.事例の検討
3.結論

1.同時傷害の特例
(1)意義
→二人以上で暴行を加え人を傷害した場合に、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共同正犯とみなされる(207条)
(2)趣旨
→同時犯としての暴行においては、発生した傷害の原因となった暴行を特定することが困難な場合が多い
→この立証の困難というだけの理由で、同時犯としての暴行による傷害ないし重い傷害の結果について何人にも責任を負担させることができないとするのは不合理である
→そこで、特別の規定を設けて、共同正犯とみなすとしてものである
(3)要件
ア.二人以上の者が意思の連絡なくして同一人に故意に基づいて暴行を加えたこと
→意思の連絡があれば60条の共同正犯となる
→一方もしくは双方に過失があるにすぎないときは適用されない
イ.数人の暴行が、外形上、共同正犯現象と評価できるものであること
→共同正犯現象といえるためには、時間的・場所的に近接しているか、少なくても同一機会による暴行が行われたことが必要である
ウ.誰がどの程度の傷害を与えたのかが判明しないこと、又は誰の行為によるのか明らかでないこと
2.事例の検討
(1)共同正犯の成否
→A、Cは全く面識がなく、意思の連絡がなかったのであるから、共同正犯は成立しない
(2)同時傷害の特例
→AとCは、意思の連絡なくBに対して、故意に基づいて暴行を加えていることから、アの要件を満たす
→AとCのBに対する暴行は、意思の連絡を除けば、一個の共同実行行為と評価できることから、イの要件を満たす
→Bの顔面打撲等の傷害は、AとCのどちらの暴行によるものか不明であることから、ウの要件を満たす
→以上から、AとCの行為は、同時傷害の特例の要件を満たす
3.結論
→A及びCは、同時傷害の特例により、傷害罪の共同正犯としての刑責を負う

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