昇任試験.com論文実践講座(刑事訴訟法事例問題)

交番主任Aらは、深夜、挙動不審な男を職務質問したところ、男は現金30万円と高級腕時計、指輪、ネックレス等を所持していた。厳しく追及した結果、約10分前に、約50メートル離れた人家から窃取してきたことを自供したので、確認したところ自供どおりであった。この場合、交番主任Aのとるべき逮捕の種別、理由について述べよ。
1 事実関係の把握
  深夜挙動不審な男を職務質問
       ↓
  現金と高級腕時計、指輪、ネックレス等を所持
       ↓
  更に追求したら約10分前、約50メートル離れた人家から窃取したことを自供
       ↓  
  被害事実の裏付けもあった
2 事実関係の分析
これらの事実関係からすると、男は、贓物を所持し、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められ、したがって準現行犯逮捕(刑訴法212条2項)できるのではないかが問題となることに気がつかなくてはならない。ただ、事例の場合、現金等の窃取が分かったのは職務質問によってであるから、職務質問によって犯罪のあったことが分かった場合でも、準現行犯の要件を満たすのか。すなわち、たぐっていって初めて犯罪のあったことが明らかになった場合(たぐり捜査)でも、罪を行い終わって間がないと明らかに認められるといえるのかという問題である。
3 答案例
1 交番主任Aらは、深夜、挙動不審な男を職務質問したところ、男は現金30万円と高級腕時計等をを所持していたので、追及した結果、約10分前に、約50メートル離れた人家から窃取してきたことを自供し、被害事実の裏付けもあったというのであるから、贓物を所持し、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められ、準現行犯逮捕(刑訴法212条2項)できるのではないかが問題となる。
2 男を準現行犯逮捕するためには、「罪を行い終わってから間がない」という時間的・場所的接着性とならんで、罪を行い終わったことの明白性が必要である。この「明白性」については、準現行犯逮捕には裁判官の令状を必要としないことや、私人にもこれをすることが許されていることを考えると、準現行犯逮捕が許されるためには、犯人としての明白性は、現場の状況等から、逮捕者が直接覚知し得るものでなければならない。
3 事例の場合、男の自供、その裏付け捜査、男が約10分前に窃盗を犯したという犯罪の時間的接着性、被害現場から約50メートルという場所的接着性からみて、男が現金等を盗んだ犯人であると一応認めることができる。しかし、これは、交番主任Aらが直接に現場の状況等から覚知したものではなく、職務質問した結果、男の自供があって初めて判明したものである。このように、被疑者の自供からたぐって捜査した結果、初めて犯罪が確認されたような場合には、それがいかに犯行と時間的・場所的接着があったとしても、罪を行い終わってから間がないことが外部的に明白であるとはいえず、準現行犯逮捕の要件を満たさない。したがって、男を窃盗の準現行犯人として逮捕することはできず、現場で逮捕する必要性があれば、緊急逮捕の手続によるべきである。
《本問を通じて理解しておくべき事項》
★準現行犯逮捕の要件は、「罪を行い終わってから間がない」という時間的・場所的接着性の要件と、罪を行ったことの明白性という要件が必要である。本問のような、いわゆるたぐり捜査の場合は、明白性の要件が問題となる。
★明白性の要件の説明は、答案例の2の説明の仕方を身に付けておくこと。
4 関連問題
深夜、郊外のパチンコ店駐車場の普通乗用車の中で仮眠していた若い男を職務質問したところ、男は住所不定、無職の甲(25歳)と判明した。ナンバー照会の結果、車の所有者が違うことから追求したところ、1時間前に約10キロメートル離れた民家の車庫から盗んできたことを自供した。そこで、裏付け捜査を実施したところ、甲の自供どおり被害事実が確認された。甲を逮捕したが、逮捕の種別と理由について述べよ。
→考え方、説明の順序は、事例問題と同様である。

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