2月26日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

論文問題 刑法〈2〉
A、B、Cは、甲会社の事務所に侵入して金庫から金を盗むことを計画した。その際、もし警備員に見つかったら、何もとらずに逃走することを約束した。犯行日になって、Aは気が変わって犯意を放棄した。一方、BとCは、いずれAが犯行に加わると思いつつ計画通りに甲会社に赴き、Bは甲会社の前で見張りをし、Cが会社事務所に侵入して、金庫を開けたところ、その物音に気付いた警備員に発見されたので、金庫の中の50万円をとり、捕まえようとする警備員を突き倒して逃走した。
Cに突き倒された警備員は、足を挫き全治10日間のけがをした。
A、B、Cの罪責について述べなさい(建造物侵入の点は不問とする)。

答案構成例
1.共謀共同正犯
2.共謀関係からの離脱
3.共同正犯と錯誤
4.事例の検討
5.結論

1.共謀共同正犯
(1)意義
→二人以上の者が犯罪の実行を共謀し、そのうちのある者がこれを実行したときは、実行行為を直接分担しなかった者も含め全員が共同正犯となること
(2)要件
ア.共同意思
→相互に他人の行為を利用・補充し合って犯罪を実現する意思
イ.共謀の事実
→他人の行為を自己の手段として犯罪を実現するという共謀があること
ウ.実行行為
→共謀に参加した者のいずれかが、実行に着手すること
2.共謀関係からの離脱
(1)意義
→犯罪の実行を決意した者の一部の者が、他の共謀者が実行行為に着手しないうちに共謀関係からの離脱すること
(2)要件
→共謀者の一人が、犯罪実行の着手前に離脱の意思を表明し、他の共謀者がこれを承諾すること
(3)効果
→離脱者は、予備罪に当たる場合は別として、処罰されない
3.共同正犯と錯誤
(1)意義
→共謀にかかる犯罪事実の内容と共謀に基づき実行された犯罪事実との間に食い違いがある場合をいう
(2)解決基準
→単独正犯における錯誤理論である法定的符合説によって処理する(判例・通説)
ア.共謀内容と発生した犯罪事実が同一構成要件内の場合(具体的事実の錯誤)
→法定的符合説によれば、共謀者全員に共同正犯が成立する
イ.共謀内容と発生した犯罪事実が異なる構成要件にまたがる場合(抽象的事実の錯誤)
→法定的符合説によれば、原則として、発生した重い犯罪についての共同正犯は否定されるが、共謀にかかる犯罪の構成要件と発生した犯罪の構成要件とが実質的に重なり合う限度で共同正犯が成立する
4.事例の検討
(1)Cの罪責
→窃盗犯人Cは、逮捕を免れる目的で警備員を突き倒し、相手方の反抗を抑圧する程度の暴行を加えているので、事後強盗罪が成立し、しかも警備員を負傷させているので強盗致傷罪となる
(2)Bの罪責
→Bは、A、Cと窃盗を共謀したのであるが、そのうちの一人であるCが強盗致傷罪を犯しており、共謀内容と発生した犯罪事実との間に食い違いが生じている
→窃盗罪と強盗罪は、窃盗罪の構成要件の範囲内で重なり合うので、窃盗罪の共同正犯が成立する
(3)Aの罪責
→犯意を放棄したAは、B、Cに対し、その旨を表明し承諾を得ているわけではないので、共謀関係からの離脱は認められないから、窃盗罪の共同正犯が成立する
5.結論
→A、B、Cには窃盗罪(刑法235条)の共同正犯(同法60条)が成立する
→Cには、さらに、強盗致傷罪(刑法240条前段)が成立する

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刑法基本講義―総論・各論

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事例から刑法を考える (法学教室Library)

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