3月10日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

刑法〈10〉
次は、実行の着手についての記述であるが、誤りはどれか。
(1)窃盗の目的で、倉庫に侵入するために入り口の錠を破壊中警備員に発見された場合、窃盗罪の実行の着手があったとはいえない。
(2)保険金を騙し取る目的で、自宅に火災保険をかけて放火し、火をつけられたと警察署に届け出ただけでは、詐欺罪の実行の着手があったとはいえない。
(3)毒物を混入した菓子を郵送し、受信人に到達した時は、殺人罪の実行の着手があるとするのが判例の立場である。
(4)スリが、背広のポケット内に財布があることを知り、これを窃取する目的でポケットの外側に手を触れた場合には、窃盗罪の実行の着手があったといえる。
(5)窃盗の目的で勝手口の鍵を破壊し、家屋内に侵入しただけでは、窃盗罪の実行の着手があったとはいえない。

⇒「実行の着手」時期は、構成要件的結果発生の現実的危険性のある行為を開始した時であるが、そのことを各種犯罪で、具体的事例を通して理解しておく必要がある。

正解(1)
(1)誤り。
→窃盗罪の実行の着手時期は、客体である財物の性質・形状及び窃取行為自体の状況などを考慮し、財物についての他人の占有を侵害する行為が開始された時である
→倉庫のように、その中に財物が入っているのが通常である建物については、窃盗の目的で侵入行為を開始した時に窃盗罪の実行の着手が認められる
(2)正しい。
→詐欺罪の実行の着手時期は、欺罔行為が開始された時であるが、警察に届け出ただけでは、そもそも欺罔行為を認めることができない
(3)正しい。
→他人を道具として利用し、実行行為を行う場合を間接正犯という
→間接正犯の実行の着手時期について、判例は、被利用者が犯罪的行為を開始した時であるとし、問題文と同様な事例おいて、受信人に到達した時に殺人罪の実行の着手があるとする(大判大7・11・16)
(4)正しい。
→スリの場合、判例は、単なる当たり行為では足りないが、例えば、ズボンのポケットから現金をすり取ろうとしてポケットの外側に手を触れた以上、着手があるとする(最決昭29・5・6)
(5)正しい。
→倉庫などと異なり、通常の住宅については、住宅に侵入しただけでは足りず、窃盗の現場において、客体に対する物色行為をはじめた時に窃盗罪の実行の着手が認められる(大判昭9・10・19)

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刑法判例百選1総論(第6版) 別冊ジュリスト189

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よくわかる刑法 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

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