3月26日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

論文問題 刑法〈3〉
甲は、信号無視を繰り返しながら蛇行運転をしていたところ、パトカー乗務員A・B両巡査によってその状況を確認され、直ちに追跡を受けた。そして、追跡してくるパトカーを振り切って逃げるため、甲は、前方を走っているトラックを追い越そうとしてスピードを上げ、右側車線に入りかけた。すると、既にパトカーが右側車線の直後に迫っており、容易に車線変更が出来ない状態にあったが、甲は、検挙されるのを逃れたい一心からパトカーに衝突してもやむを得ないと考え、あえて車線変更した。そ結果、パトカーに接触させてパトカーの左側ドアを損壊した上、乗務員のB巡査に1週間の打撲傷を負わせた。
この場合の甲の刑責について述べなさい(器物損壊罪及び道路交通法違反の点は除く)

答案構成例
1.公務執行妨害
(1)主体・客体
(2)行為
(3)故意
2.事例の検討
3.結論

1.公務執行妨害
(1)主体・客体
→主体に制限はない
→本罪の保護の客体は公務それ自体であるが、行為の客体は公務員である
(2)行為
ア.職務の執行
→本罪の行為は、公務員が「職務を執行するに当たり」、という状況の下でなされる必要がある
イ.職務執行の適法性
→本罪の職務執行は適法であることを要する
→適法性の要件
→a当該行為がその行為をした公務員の抽象的職務権限(一般的職務権限)に属すること、b当該公務員がその職務行為を行う具体的職務権限を有すること、c その職務執行を有効にする法律上の重要な要件又は方式を履践していること、の三つである
ウ.暴行・脅迫
→本罪の行為は、職務の執行を妨げる程度の暴行・脅迫(広義)である
→したがって、物に対して加えられた有形力が、間接的に公務員の身体に物理的影響力を与える場合(間接暴行)も含まれる
(3)故意
→本罪の故意は、行為の客体が公務員であること、及びその職務執行に際して暴行・脅迫を加えることの認識である
2.事例の検討
→警察官が違反行為を繰り返している甲をパトカーで追跡する行為は、警察官の抽象的職務権限、さらに具体的職務権限に属し適法な職務執行であり、公務員が「職務を執行するに当たり」という要件を満たす
→甲が、パトカーに接触させてパトカーの左側ドアを損壊した行為は、直接警察官の身体に対して加えられたものではないが、間接暴行として公務執行妨害罪の行為である「暴行」に当たる
→パトカーに接触してもやむを得ないと考え、あえて車線変更したとあるので、公務執行妨害罪の未必の故意が認められる
→乗務員のB巡査が負傷した点については、傷害罪が成立する
3.結論
→甲には、公務執行妨害罪(刑法95条)、傷害罪(刑法204条)が成立する
→両罪の罪数関係は、一個の行為で数罪が認められることになるから、観念的競合(刑法54条1項前段)となる

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刑法判例百選1総論(第6版) 別冊ジュリスト189

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よくわかる刑法 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)

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