8月19日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

論文問題 刑法〈8〉
〔共同正犯と中止犯〕
甲と乙は、共同して他人の家に強盗に押し入ることを共謀し、その実行行為に着手したという前提の下で、次の場合における甲及び乙の罪責について述べなさい。なお、未遂罪が成立する場合においては、その種別についても述べなさい。
(1)甲は、後悔して、乙に無断で現場から逃走した。乙はそれを意に介さず脅迫を続けたが、被害者の悲鳴に驚いて犯行を中止した。
(2)甲は、被害者の悲鳴に驚いて、乙に犯行の中止を求めた。乙は、これを意に介さず、甲が逃走した後も単独で財物を強取した。
(3)甲は、後悔して乙に犯行の中止を求めた。乙は、単独では犯行の続行が困難なため、やむを得ず犯行を中止した。
【警部補試験】

答案構成例
1.中止犯
2.共同正犯と中止犯
3.小問の検討

1.中止犯(中止未遂)
(1)未遂犯
→「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」場合を未遂犯(刑法43条本文)というが、「遂げなかった」理由により、中止未遂と障害未遂とに分けられる
(2)中止犯
→中止犯が成立するためには、既に犯罪の実行の着手がなされていることを前提として、行為者が、ア「自己の意思により」(任意性)、イ「犯罪を中止した」(中止行為)ことが必要である
2.共同正犯と中止犯
→共同正犯においても、中止犯の成否が問題となる
→しかし、共同正犯の場合には、単独犯の場合と異なりほかにも正犯者がいるため、共謀者の一人が単に中止を決意して犯行を中止すれば足りるというものではない
判例・通説は、共同正犯において中止犯が成立するためには、ア.共謀者が任意に中止を決意する必要があるとともに、イ.当該共謀者が、真摯な努力により、他の共謀者の実行を阻止するか、又は結果の発生を防止しなければならない、と解している
→この中止未遂の効果は、その共謀者についてのみ及び、他の共謀者にとっては障害未遂の効果が認められるにすぎない
3.小問の検討
小問(1)について
→甲は、後悔したものの、単に乙に無断で逃走したにすぎず、中止のための行為があったとはいえない
→乙は犯行を中止しているが、被害者の悲鳴に驚いたため中止したもので、「自己の意思により」中止したと評価することはできない
→すなわち、外部的事情(悲鳴)によって犯行を中止したのであって、外部的事情があったにもかかわらず行為者の自由な意思決定によって中止したとはいえないのである
→したがって、甲・乙には強盗未遂罪(障害未遂)の共同正犯が成立する(刑法236条、43条、60条)
小問(2)について
→甲は、被害者の悲鳴に驚いて、乙に犯行の中止を求めているが、結果発生を阻止しておらず、中止犯は成立しない
→乙によって財物が強取され強盗罪が成立しているから、甲と乙には、強盗罪の共同正犯が成立する(刑法236条、60条)
小問(3)について
→甲は、後悔して乙に犯行の中止を求め、結果として乙も犯行を中止しているから、甲には強盗罪の中止犯が成立する(刑法236条、43条ただし書)
→しかし、乙は、単独では犯行の続行が困難なため犯行を中止したにすぎず、「自己の意思により」中止したと評価できない
→したがって、乙には強盗罪の障害未遂罪が成立する(刑法236条、43条本文)

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