8月23日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

刑法〈33〉
次は、想定事例と適用罪名についての組合せであるが、誤りはどれか。
(1)洋服店内で、顧客が買い受ける旨を装ってコートを試着し、店主の隙をみて逃走した。ー窃盗罪
(2)窃取した銀行の預金通帳と印鑑により、銀行から現金の払い戻しを受けた。ー窃盗罪、有印私文書偽造・同行使罪、詐欺罪
(3)深夜一人で販売業務を任されていたコンビニのアルバイト従業員が、レジの中から現金を不法に領得した。ー横領罪
(4)甲は、友人から車を借りてドライブ中、車のダッシュボードを開けたところ、現金1万円が入っていたので、費消してしまった。ー横領罪
(5)Aタクシー会社に勤務する運転手甲は、仕事が嫌になり、自己が稼働中であったAタクシー会社所有のタクシー1台を中古販売業者に売却してしまった。ー窃盗罪

⇒事例問題の場合、特にSA問題の場合は、一種のカン(常識?)で問題を解こうとする傾向があるように思われる。しかし、これでは事例を解決する能力は身につかない。問題となっている犯罪についての成立要件を思い浮かべ、一つ一つ当てはめていくという作業を地道に繰り返すことで、身につけるしか方法はない。

正解(3)
(3)誤り。
→横領罪(252条)の客体は、「自己の占有する他人の財物」であり、窃盗罪(235条)の客体は、「他人の占有する他人の財物」である
→したがって、両罪の区別は、占有がどこにあるかが基準となる
→コンビニの店員のように、店主の占有を機械的に補助する者には、独自の占有はないから、レジの中の現金は店主の占有であり、それを不法に領得すれば窃盗罪となる
(1)正しい。
→財物を一時他人に手渡しても、具体的状況上、その財物の占有が、依然、手渡した者の側にあるとみられる場合がある
→試着を許しても、店主はコートの占有を失っていないから、客が隙をみて持ち逃げする行為は、窃盗罪を構成する
(2)正しい。
→預金通帳に対する窃盗罪が成立することは明らかである
→問題は、払い戻した現金について、詐欺罪が成立するのかどうか、これは通帳に対する窃盗罪の不可罰的事後行為ではないのかが問題となる
→現金については、銀行の占有を侵害するものであり、窃盗罪によって評価し尽くされない新たな法益侵害であるから、別罪である詐欺罪が成立する
→預金払戻請求書は預金者たる名義人のみが作成することができる私文書であるから、この者の名義を冒用して請求書を作成する行為は、有印私文書偽造罪(159条)となる
→これを銀行に提出したことは、同行使罪(161条)を構成する
(4)正しい。
→友人が車を行為者に貸したという状況の下では、自動車とともに、包括的にダッシュボードの中の現金についても、その保管を行為者に委託したものと解すのが社会通念に合致する
→したがって、ダッシュボードの中の現金を費消することは、「自己の占有する他人の物」を領得したことになり、横領罪が成立する
(5)正しい。
→車の占有はAタクシー会社にあるので、運転手甲がこれを売却する行為は、Aタクシー会社の占有を侵害するものとして窃盗罪が成立する

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刑法基本講義―総論・各論

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たのしい刑法 第2版

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