8月27日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

論文問題 刑法〈9〉
〔無銭飲食〕
甲は、スナックに行き、経営者乙にビールとつまみを注文し飲食した(代金7,000円)。次のそれぞれの場合における甲の罪責について述べよ。
(1)甲は、代金支払いの意思も所持金もないのに、乙にビール等を注文して飲食後、「トイレに行ってくる」と言って代金を支払わずに逃走した。
(2)甲は、所持金5,000円を持っており、代金は5,000円以内だろうと思っていたところ、乙から7,000円を請求されたことに腹を立て、食い逃げすることにして、乙に対し虚偽の勤務先、名前等を告げ、「明日払うから会社に取りに来てくれ」といい、乙を信用させて立ち去った。
(3)甲は、当初代金支払いの意思があったが、飲食後、食い逃げしようと思い立ち、「トイレに行ってくる」と乙を欺いて逃走した。
答案構成例
1.詐欺罪
2.事例の検討

1.詐欺罪
(1)意義
→人を欺いて相手方を錯誤におとしいれ、その占有する財物を任意に交付させ、又は任意の処分行為により財産上不法の利益を得る犯罪をいう
(2)成立要件
欺罔(欺くこと)→錯誤→財産的処分行為→財物又は財産上の利益の取得という構成要件要素が、客観的には因果的連鎖に立ち、主観的には故意によって包摂されていることが必要である
2.事例の検討
小問(1)
→甲は、代金支払いの意思も所持金もないのに、乙にビール等を注文しているから、注文の段階で、支払意思について欺く行為がある
→乙は、甲の欺く行為によって代金を支払ってもらえるという錯誤に陥り、ビール等の提供という財産的処分行為をしている
→甲は、乙の財産的処分行為によって、飲食物という財物を取得しているから、1項詐欺罪(刑法246条1項)が成立する
小問(2)
→甲には所持金があり、5,000円以内で支払いの意思があるから、注文・飲食の段階では欺く行為はない
→代金請求の段階で、代金支払いを免れようとしているから、2項詐欺罪(刑法246条2項)の成否が問題となる
→甲は、虚偽の勤務先、名前等を告げて「明日、会社で支払う」と言っているから、欺く行為が認められる
→乙は甲の虚言を信用し、支払いの猶予をしており、錯誤に基づく財産的処分行為も認められる
→甲は、これにより支払いを免れて財産上の利益を取得しているから、2項詐欺罪が成立する
小問(3)
→甲は、飲食後に食い逃げする意思を生じており、飲食の提供は欺き行為によるものではないから、1項詐欺罪は成立せず、2項詐欺罪の成否が問題となる
→2項詐欺罪の成立にも、相手方が錯誤に基づいて財産的処分行為を行うことが必要である
→甲は乙に「トイレに行ってくる」と欺いて逃走し、事実上支払いを免れただけで、乙に支払猶予等の財産的処分行為があったとは認められない
→したがって、甲には2項詐欺罪は成立しない
→この場合、いわゆる利益窃盗となるが、現行法上これを処罰する規定がないから、不可罰である

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