9月3日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

論文問題 行政法〈9〉
〔警告と制止〕
交番勤務のA巡査部長は、「交通上のトラブルから車両を止めて男性二人がけんかをしている」との通報で現場臨場した。現場では、甲と乙が激しく口論していたが、A巡査部長の忠告でいったんは収まりかけた。しかし、乙が甲を再度ののしったため、突然甲が自分の車両内にあった金属バットを持って、乙に殴りかかろうとしたので、これを見たA巡査部長が、甲の手を押さえて、投げ飛ばし制圧した。
A巡査部長の行為の適法性について述べなさい。

答案構成例
1.警告
2.制止
3.事例の検討

1.警告
(1)意義
→警告とは、犯罪の発生を予防する目的で、警察官が、犯罪を行おうとしている者、その被害を受けるおそれのある者その他の関係者に対し、行為の中止、危害の回避を求めることをいう
→警告は、相手方に対する任意手段としての指導であって、これに従う法的義務を課すものではない
(2)要件
→警察官は、「犯罪がまさに行われようとするのを認めたとき」は、その予防のため関係者に必要な警告を発することができる(警職法5条前段)
→「犯罪」とは、構成要件に該当する違法な行為をいい、有責性を要しない
→「まさに行われようとする」とは、犯罪が行われる可能性の高いことが客観的に明らかになることを意味する
→犯罪の着手後、それが更に継続又は反復して行われようとする場合も含む
(3)要件の判断基準
→「犯罪がまさに行われようとする」か否かの警察官の判断は、客観的に合理性が認められなければならず、主観的又は恣意的であってはならない
(4)方法
→警告の方法は、口頭によることが一般的であるが、状況に応じ、文書や拡声器の使用、警笛やサイレンの吹鳴、身振り等の動作の方法がある
→必要に応じ、強制わたらない限度で、直接行動することも可能である
3.制止
(1)意義
→制止とは、犯罪行為を実力で阻止することをいう
→制止は、義務を命ずることなく実力で直ちに中止の結果を実現する即時強制に当たる
(2)要件
→警察官が、ア.「犯罪がまさに行われようとする」のを認めたときで、かつ、イ.「その行為により人の生命若しくは身体に危害が及び、又は財産に重大な損害を受けるおそれがあって」、ウ.「急を要する場合」に、制止を行うことができる(警職法5条後段)
→「人」には、犯罪行為の直接対象となる者だけでなく、通行人その他の第三者、警備中の警察官、犯罪行為を行う者自身も含まれる
(3)方法
→制止の方法は、その事態に応じた必要な限度に限られ、社会通念上相当と認められるものでなければならない
→制止のため必要な場合は、警棒や警杖、放水、催涙ガス等を使用できる
4.事例の検討
(1)警告
→事例では、甲と乙が激しく口論しており、暴行罪等の犯罪がまさに行われようとする場合であるから、警告の要件を満たす
→したがって、A巡査部長の忠告(警告)は適法である
(2)制止
→突然甲が金属バットを持って殴りかかろうとした行為は、「犯罪がまさに行われようとする」場合に該当し、「人の生命・身体に危険が及び」、「急速を要する場合」であると認められるので、制止の要件を満たす
→甲の手を押さえて、投げ飛ばしたことは、その事態に応じ必要な限度なもので、社会通念上相当と認められるものであるから、A巡査部長の制止は適法である

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