9月15日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

刑法〈36〉
次は、窃盗罪についての記述であるが、誤りはどれか。
(1)不法所持の銃砲刀剣類、覚せい剤や毒物など、法令上、私人による所有・占有が禁じられている物品も窃盗罪の「財物」に当たる。
(2)他人の自動車を、数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに、所有者に無断で約4時間余りの時間乗り回したときは、使用後に元の場所に戻すつもりであったとしても、不法領得の意思があったと認められる。
(3)人を殺害した者が、その直後、領得の意思を生じて現場で被害者の財布を奪取する行為は、殺人罪とは別に窃盗罪を構成する。
(4)自転車の部品を盗む目的で自転車を持ち出し部品を取り出した後、自転車をその場に放置した場合は、自転車全体についての窃盗罪は成立しない。
(5)被害者のズボンのポケットから現金をスリ取ろうとして、ポケットに手を差し伸べ、その外側に手を触れた以上、窃盗の着手があったものといえる。

⇒「窃盗罪」に関する出題は、財産罪の分野では、階級に関係なく頻出である。事例で問われたり、成立要件の文言の意味が問われたり、出題内容も様々である。客体、行為、不法領得の意思などの要件についての知識・理解を、少しずつ積み上げていくしかないと思う。

正解(4)

(4)誤り。
判例は、発電ランプやベルなどの付属品領得の目的で自転車を持ち出し自転車を遺棄した事案で、発電ランプと自転車とを刑法上一個の財物とみて、全体について窃盗罪の成立を求めている(東京高判昭27・5・31)
(1)正しい。
→禁制品も、その没収には一定の手続を要するから、法律的手続をふまなければ没収されないという限度において、事実上の占有が可能であり、法律的手続によらないその奪取行為に対しては刑法上の保護が必要である
→したがって、少なくともその範囲においては財物性を認めるべきである(最判昭24・2・15)
(2)正しい。
判例は、不法領得の意思とは、「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」とする
→したがって、「乗り捨ての意思」がある場合は不法領得意思が認められるが、単に一時使用のために他人の財物を自己の占有に移す行為には、不法領得の意思は認められない
→しかし、他人の自動車を数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図で、所有者に無断で乗り出し、4時間余市内を乗り回した場合には、たとえ使用後に元の場所に戻しておくつもりであったとしても、不法領得の意思があったものとされている(最決昭55・10・30)
(3)正しい。
→人を死亡させた後、その財物を奪取する意思を生じてこれを奪った場合には、その奪取行為は窃盗罪に当たる(その理由をどのように考えるかについて争いがある-死者も占有の主体とみられるかという問題)
→なお、この場合、致死行為を手段として盗取したものではないから、強盗罪ではなく、窃盗罪が成立するにとどまることに注意
(5)正しい。
→窃取行為の着手時期は、スリについては、単なる当たり行為では足りないが、ズボンのポケットから現金をスリ取ろうとしてポケットの外側に手を触れた以上、着手が認められる(最決昭29・5・6)

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刑法基本講義―総論・各論

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たのしい刑法 第2版

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