10月20日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

刑法〈41〉
次は、事例と甲の罪責を結びつけたものであるが、誤りはどれか。
(1)甲は、デパートで買物をしようと、カラー複写機で1万円札の裏表を写真コピーし、一般人を、本物と誤信させるような極めて精巧な偽札を作り出した。ー通貨偽造罪
(2)甲は、酒屋でアルバイト中に、店主から「今月分だけ私に代わって集金してくれ。」と頼まれ、得意先から売掛金を集金したが、自己の借金の返済に充てようと思い、集金した金を持ったまま逃走した。ー窃盗罪
(3)甲は、公園で遊んでいたA子が13歳未満であることを知りながら、性的好奇心から「お小遣いをあげるから」と言って、公園の隅に誘い暴行・脅迫することなく同女の全裸写真を撮った。ー強制わいせつ罪
(4)甲は、通行中の中学生Aに現金を交付させる目的で、「金を貸さないとぶん殴るぞ。」と申し向け、同人の胸元を押して現金の交付を要求したところ、Aは、その言動に畏怖して財布を近くの植え込みになげた。甲はすかさずそれを拾い上げ「返してください。」と懇願するAに「殴られたいか。」と脅迫して財布の返還請求を断念させた。ー恐喝罪
(5)甲は、スナックで飲食中、Aと口論になったことから、Aを脅かすつもりでA目がけてコップを投げ付けたところ、コップが割れて甲が予期しなかったAの隣にいたBの頬に刺さって負傷させた。ー傷害罪

⇒事例問題は、犯罪成立要件を具体的に理解しているかどうかが問われている。したがって、まず、事例で問題となる犯罪の成立要件が思い浮かばなくてはならない。ただ、SA問題の場合、論文問題の場合と異なり、すべてを説明する必要がない分だけ容易であるが(勘によっても正解に達することがある)、論文問題を意識して解説などを参考に、事例の分析の仕方は注意しておく必要がある。

正解(2)

(2)誤り。
→甲が集金した売掛代金は、甲の占有にあるが、所有は店主にある
→集金を持ったまま逃走したことは、不法領得の意思の発現である
→したがって、自己の占有する他人の物を横領したことになり、甲には横領罪が成立する
(1)正しい。
→通貨偽造罪の「偽造」とは、通貨の発行権をもたない者が、一般人を、真貨と誤信させるような外観のものを作り出すことをいう
→甲はデパートで買物をするために偽造しているから、行使の目的も有する
→甲には通貨偽造罪が成立する
(3)正しい。
→強制わいせつ罪は、客体が13歳未満の場合、手段として暴行・脅迫は不要である
→本罪は、行為者のわいせつな主観的傾向の発現として行われることを要する(傾向犯)
→甲は性的好奇心から全裸写真を撮っているから本罪の要件を満たし、強制わいせつ罪が成立する
(4)正しい。
→被害者を恐喝して、被害者が投棄した財物を行為者自ら取得する場合も、恐喝罪における「財物を交付させた」ということができると解されている
(5)正しい。
→傷害罪は、暴行罪の結果的加重犯を含むものであり、暴行の認識をもって傷害の結果が発生すれば、その結果に対しても傷害罪の責任を問うことができる(最判昭22・12・15)
→甲がAを目がけてコップを投げ付けたところ、その隣にいたBに対して傷害の結果が発生しており、同一構成要件内における錯誤が問題となる
判例・通説である法定的符合説によれば、Aという「人」を認識してBという「人」を傷害したいるが、傷害罪の客体である「人」の認識として欠けるところはない
→したがって、甲には、傷害罪が成立する

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図解でわかる刑法 (入門の法律)

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刑法 (図解雑学)

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