10月22日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

論文問題 刑法〈11〉
〔通貨偽造罪〕
Aは、印刷会社を個人経営している者であるが、自己の技量を試したくなり、1万円札の偽札の製作を始めた。製作の段階で知人のBに見せ自慢したところ、Bは、それが真券とそっくりであるところから使おうとたくらみ、Aに譲ってくれるよう申し込んだ。Aは、Bの態度から偽札に自信を持ち、100枚は自分で使うため残し、Bには、Bが偽札を使用するかもしれないと思いながら、200枚を20万円で譲渡した。
Bは、100枚を銀行の自動両替機で千円札に換金し、借金を返済した。また、妻のCに偽札であることを告知して20枚を与え、Cはこれで指輪を購入した。
この場合における、A、B、Cの刑責について述べなさい。

1.Aの罪責
(1)通貨偽造罪
ア.意義
→通貨偽造罪は、行使の目的をもって、通用の貨幣、紙幣又は銀行券を偽造することによって成立する
イ.偽造
→偽造とは、通貨の発行権をもたない者が、一般人を、真貨と誤信させるような外観のようなものを作り出すことをいう
ウ.行使の目的
→行使の目的とは、偽造の通貨を真貨として流通に置く目的をいう
エ.事例の検討
→Aは、偽札の製作当初は、自己の技量を試したいという目的であったが、途中からは、本罪の行使の目的があったということができるので、通貨偽造罪が成立する
(2)偽造通貨交付罪
ア.意義
→偽造通貨交付罪は、偽貨を行使の目的で、これを人に交付することによって成立する
イ.交付
→交付するとは、偽貨であることの情を明らかにして、相手方に手渡すことをいう
→偽貨であることを告げて手渡す場合と、既に情を知っている相手方に手渡す場合とを含む
→交付は、有償であると、無償であるとを問わない
ウ.事例の検討
→Aは、偽貨を行使しようとしているBに売却しているから、交付が認められ、Aには、偽造通貨交付罪が成立する
2.B、Cの罪責
(1)偽造通貨収得罪
ア.意義
→偽造通貨収得罪は、行使の目的をもって、偽造・変造の貨幣・紙幣・銀行券を取得することによって成立する
イ.行為、目的
→行使の目的で、取得することである
→有償・無償を問わない
→取得の後、偽札であることを知り、行使の目的を生じても、本罪を構成しない
ウ.事例の検討
→Bは、偽1万円札を使おうと企てAから譲り受けており、行使の目的が認められるから、偽造通貨収得罪が成立する
→Cは、Bから偽札である旨を告げられ受け取り、後に指輪を購入しているから、収得後偽札であることを知った場合と異なり、行使の目的がなければ受け取らなかったと考えられる
→Cには、偽造通貨収得罪が成立する
(2)偽造通貨行使罪
ア.意義
→偽造通貨行使罪は、行使すること、または行使の目的で人に交付すること、もしくは輸入することによって成立する
→行使するとは、偽貨を真正な通貨として流通に置くことによって成立する
→交付するとは、偽貨であることの情を明らかにして、相手方に手渡すことをいう
イ.事例の検討
→Bは、銀行の自動両替機で換金しているが、これは偽貨を流通に置く行為にほかならないから、偽造通貨行使罪が成立する
→また、Cに偽札である旨を告げて20枚を交付しているから、偽造通貨交付罪が成立する
→Cは、偽1万円札を使って指輪を購入しているから、偽造通貨行使罪が成立する

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刑法事例演習教材

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たのしい刑法 第2版

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