4月19日「今日の模擬試験」配信分のメッセージ

こんにちは。水野です。

刑法〈16〉
次は、窃盗罪の客体である財物についての記述であるが、誤りはどれか。
(1)管理可能なものであれば、アパートの自室の空気を冷やすため、隣室との堺の壁に穴を開け隣室の冷気を自室に流入させた冷気も、財物となりうる。
(2)人の身体は財物ではないが、分離された身体の一部、例えば婦人の毛髪は財物である。
(3)麻薬などのように法令により私人が所持、所有を禁じられたものも財物である。
(4)財物は、経済的価値を有することはもちろん、金銭的価値を有することが必要であるから、支払い提示期間が過ぎた無効の小切手は、当該財物には該当しない。
(5)窃盗罪の客体は、他人の財物であるが、自己の財物であっても他人の占有に属している場合は、他人の財物とみなされ、これを窃取したときは窃盗罪が成立する。

⇒財物は、財産罪の客体として重要である。過去の出題例を見ても、(1)有体性の要否、(2)価値の要否、(3)可動性の要否、(4)禁制品、(5)人の身体、(6)埋葬対象物、などについて繰り返し出題されている。

正解(4)
(4)誤り。
→財物の価値は、経済的価値や金銭的価値を有する必要はなく、財産罪による保護に値するものであればよい
→支払い提示期間が過ぎた小切手は無効となり、小切手としての積極的価値はないが、他人の手に渡って悪用されないことについて消極的な価値が認められ、窃盗罪による保護に値するから、窃盗罪の客体としての財物に当たる(最決昭29・6・1)
(1)正しい。
→「財物」は有体物(一定の空間を占める物)に限るとするのが支配的見解であったが、現在は、管理可能な限りエネルギーなどの無体物も財物であるとする管理可能説が判例・通説となっている
→人工冷気は管理可能であり財物である
(2)正しい。
→人の身体は、そのままでは財物ではない
→身体から分離された部分は財物となりうる(カツラの材料として切り取られた毛髪など)
(3)正しい。
→禁制品は、法令上私人による所有・占有が禁止されているから、財産罪の客体にならないのではないか問題となる
判例は、禁制品の財物性を肯定する(最判昭24・2・15など)
→禁制品もその没収には一定の法律上の手続を必要とするから、法律的手続によらないその奪取行為に対しては刑法上保護の必要があり、したがって、その範囲で財物性を認めるべきであるとされている
(5)正しい。
→自己の財物であっても他人の占有に属する場合は、他人の財物とみなされる(刑法242条)

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事例から刑法を考える (法学教室Library)

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刑法事例演習教材

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